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日蓮宗 光照山 蓮久寺は、法話の聞けるお寺です。

三木大雲 法話

「この手紙天まで届け」

ここに一枚のティッシュを丸めたものがあります。

これを高い所から落として、当たった人は死ぬでしょうか。

 答えは、当たった人は死にます。当たらなかった人も死ぬ。

人は必ずいつか死ぬ。私はこの事実を理解しているつもりでしたが、

本当には理解出来ていなかったのです。

それを実感させてくれたのが、松本崇君という一人の青年でした。

 私が彼と出会ったのは、彼の友人が、おもしろいお坊さんがいるから

一緒に話を聞きに行こうということで、私のもとに来てくれたのが最初でした。

彼が十六歳、私は大学を卒業したばかりの頃でした。

ある日、彼が足が痛むということで、病院に行き検査を受けました。

検査の結果は、骨肉腫という癌だということでした。

その時彼はまだ二十歳でした。

それから四年経ち、余命半年の宣告を受けました。

みなさんは、お医者さんから余命半年の宣告を受けた人にどのような言葉をかけますか。

維摩経の中に、病人を見舞う心構えが説かれています。

「生老病死を説いてもよいが、身体が苦しくても、身体から離れてしまいたいという

気持ちを起こさせないように、慰め、励まさなくてはならない」

という意味のことが説かれています。

そこで私は彼に「最後まで生きることを諦めるな」と日々励ましました。

 闘病生活は苦しいものでした。しかし彼は、力一杯命の火を輝かせ、

二十四歳でこの世を去りました。一年が過ぎた頃、彼に手紙を書きました。

松本崇君へ

 はやいもので、あなたと会えなくなって、一年が過ぎました。

この一年、悲しくて、つらくて、思い出しては泣きました。

そんな私をどこからか見ては、心配してくれているんでしょうね。

 ある日君が、「俺、もうじき死ぬんですかね」って言った日のこと覚えていますか。

「まだまだ死んだりするわけない。俺が何とかするから、約束するから」

って私は怒ってしまいました。それなのに「約束、守れなくてごめんなさい」

「今、あなたは怒っているのかな。それともゆるしてくれているのかな」って、

ときどき考え込んでしまいます。ある日あなたは、病院のベットの上で「ひげを剃ってほしい」

と言ったから、法衣姿のままのわたしが、ひげを剃ってあげました。

あなたはそり終わると、満面の笑みを見せてくれました。

そして私に向かって「ありがとうございました」って言いながら手を合わせてくれましたね。

そのとき私は照れて口に出さなかったけど、「こちらこそありがとう」って、心で言っていたんですよ。

私と最後に会った日、帰り際、あなたは私の手をつかみ、握手をしてくれました。

声が出にくくなった君が、病院のベットの上で手を合わせながら、

私を見送ってくれた姿に生きる強さを感じました。

しかしそれが、あなたとわたしの最後の別れの挨拶になってしまいましたね。

また明日はやって来ると思っていたことが、わたしの勘違いだったと思い知りました。

「ただいま」「おかえり」、ほんのささいな挨拶が、これほど大切でありがたいものだと知りました。

今も、悲しくて、つらくて、思い出しては涙が出ます。

でも、これからは安心して下さい。あなたと会えなくなった悲しさよりも、

あなたと出会えたことに感謝しながら生きていこうと決心しました。

この約束だけは、私があなたのもとに行くまで決して破ったりしません。

松本崇君、「あなたに出会えたこと、本当に心から感謝しています。ありがとう。」

                              三木大雲より
どうかこの手紙が、天まで届きますように。

愛別離苦。愛するものとの別れの苦しみがお経には説かれています。

世界のどこかで、愛別離苦に苦しんでいる人がいたら、どうかその悲しみを出会えた喜びに変えて、

新たな一歩が共に踏み出せますように。




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日蓮宗 光照山 蓮久寺

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